上の写真はアルメニアの首都エレバンです。遠くの山、アララト山は『旧約聖書』の創世記のなかでノアの方舟の漂着地とされる山です。悪で満ちた地上が大洪水で罰されたときに神に選ばれたノアとその家族たちが箱船で送られてきたという山です。そして、アルメニア人の父祖はノアの血を引くとされています。
聖書:
前奏:
今日は2022年のクリスマス、12月25日です。みなさんはどのようにお過ごしでしょうか?
私が幼い頃,このクリスマスは一年中で一番ワクワクして楽しいときでした。アメリカから祖父が持参していたオーナメント(クリスマスツリーにつける装飾品)が入っている箱を開けて、父が山から切ってきた大きな松の木に付けていくのが年中行事でした。一番上には通常星をつけることが多いようですが、我が家では綺麗なガラス製の鳥でした。それを最後につける時になんとも誇らしい思いがしたものです。
チャプレンの研修も後半を迎えていた頃です。
20歳の女性が胃がんの手術をする予定と書かれていたので訪問をしました。彼女のお姉さんがアメリカに移民をしておられたのでお姉さんを頼ってアルメニアから出稼ぎのために来ていたのです。ところが、一年もしないうちに胃がんを発症して入院をされたのでした。彼女の不安は予定されていた手術が延期になったままその後の手術日が決まらないということでした。私と同様に彼女も英語が第二外国語であることもあってなかなか医療スタッフから延期の理由説明を聞いても十分に理解ができていないのかもしれないと思いました。お姉さんとも病室でお会いしましたが彼女も事情がよくわからないということだったのです。
20~40代の若い女性に起こりやすい「スキルス胃がん」でした。「スキルス」とはギリシャ語で「硬い腫瘍」という意味があり、その名のように胃の壁を固くさせながら染み込むように広がっていくのが特徴です。がんが進行するスピードも速いために発見した時にはすでに他の部位へ転移した状態になっていることも少なくありません。胃がんは男性が多いのですがこのタイプは圧倒的に女性に発症すると言われています。彼女は見るからに痩せて衰弱していて重症のように見えました。おそらく他の臓器に転移していて手術の可能性が低いのではないかと思われました。彼女の望みは手術を早くしてほしいということでしたので、「主治医に私から手術のことを聞いてみましょうか?そしてその詳しい説明をしていただきたいですか?」とたずねました。ご本人もお姉さんも同意されましたので、主治医のところに行きました。予想どおり、「腹膜播種」といって、腹腔内にがん細胞がばらまかれるように広がってしまう状態になっていたのです。そのために手術が困難で手術による治癒を目指せる状態ではないということでした。この話は医師から是非ともわかりやすくご説明をしていただけるように御願いをしました。
1週間たってから再度お部屋をお訪ねしました。彼女のお姉さんもご一緒でしたが医師からの厳しい話を聞いたことでとても重苦しい表情でした。お二人とも神様の存在を信じない無神論者ということでした。特にお姉さんはその気持が強く「神様がいるならどうしてこんなひどいことを!」と怒りをあらわにしておられたので私はどのようにお慰めしたらいいのか無力感で一杯でした。ご本人は「死ぬのだったらひと目お母さんに会ってから死にたい。アルメニアに帰りたい!」と泣くばかりでした。気休めは勿論のこと言えませんし、その願いを神様にお祈りをしましょうとも言えないので全く途方にくれてしまい病室を訪ねるのが心苦しく、しばらく足が遠のいてしまいました。
そうこうしているうちに、ネパールから所要で来られた牧師先生をどういうルートだったのかは記憶にないのですがご紹介していただいたのです。翌年ネパールに行く予定でしたので是非ともお会いしたいと思いました。それと同時にその牧師先生にお願いしてご一緒にこの方のために祈ってほしいと思ったのです。
ご本人とお姉さんに「神様を信じておられないのは十分わかっているのですけど、実は明日、ネパール人の牧師先生と病院でお会いするので、もし、お嫌でなければ祈ってもらったらどうでしょうか?」と勇気をだしてたずねました。すると、お二人が「それもいいかもしれないですね。」と予想外にも承諾してくれたのです。そして、翌日牧師先生が病室を訪ねてくださり、力強く癒しの祈りをしてくださいました。彼女たちはおそらく「藁にもすがる」思いだったと思います。その翌日におたずねをすると、お姉様の胸には十字架のペンダントがかけられていました。それをつけていたからキリストを信じたとは思いませんでしたが、私は気持ちがとても楽になって度々病室を訪ねることができたのです。
ある日のこと、私がいつものように病室を訪ねると患者さんの顔が輝いているではありませんか!何が起こったのかと聞くと「この病院が私に飛行機代を出してくれてアルメニアに帰れるように手配してくれたのです。おまけに姉の切符も用意してくれて一緒に行けるようになったのです!お母さんに会えるんです。私はとても満足しています。色々心配してくださって有難うございました。」私は思わず彼女の手を取り「良かったですね。なんて素晴らしいのでしょうか!嬉しいですね!」と叫び、彼女と固くハグをしました。
みなさん!このような奇跡ともいうべきことが起こるのですね!私はこのような支援を提供することができる国の懐の深さに驚かされるばかりでした。誰も予想することができない彼女の心からの願いがかなえられたのです。その一週間後、彼女は満面の笑みを浮かべながら故郷のアルメニアに出発されたのでした。私は神様が彼女の悲しみの涙を拭ってくださって最高のプレゼントを送ってくださったのだと信じています。
後奏:
また、日本語の校正は私のネパール時代からの友人である茨城県在住の箱崎雅子さんが毎週してくださって誤字、いいまわし、意味不明のところの助言をしてくださり大変助かっています。
英語は私が翻訳した英文を最終校正してくださるのは、3人の息子の他に、長年札幌で宣教師としてご夫妻でご奉仕くださって任期を終え、アラスカに在住しておられるMrs.Athlee Bowmanにしていただいています。さらに、今年は、彼らの都合がつかなかった時に,アメリカ、ジョージアからこられている串本高校の英語の教師、Mr.Byron Westfieldにしていただきました。
私の足りない部分をこの方々に補っていただいて皆様にお届けをしています。この書面をお借りして心から感謝の意を表したいと思います。今年もご協力有難うございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。